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今書いている小説の内容

現在は以下の内容を書いている。(進捗度は30%くらいだろうか。途中の状態の小説をアップするのは作法に反するが、表に出すことで完成につなげたい)

 世界にまだ竜が飛んでいた頃のこと。
 リベール王国東部ハンナ村。
 そこにピーヤという子供がいた。

 ピーヤは何もできない子供だった。
 不器用で、才能がなく、何をさせても失敗してしまうようような子供だった。
 赤ん坊の頃は、大丈夫だった。
 両親も、ピーヤを普通の子だと思っていた。

 だが、大きくなるうちに、他の子たちとの能力の差が明らかになった。
 水汲みをさせると、帰ってくる途中で水をこしてしまう。
 食器洗いをさせると、皿を落として割ってしまう。
 干した洗濯物をとりこむのを忘れてしまう。
 ……挙げればきりがない。
 どれも他の兄弟は当たり前にできていることだ。
 子どもだからで済まされない問題だ。

 だから、両親は、ピーヤに怒った。
 できて当たり前の仕事ができない、それどころか足を引っ張る。
 「こんな子供は生みたくなかった」と、ピーヤに告げた。

 ピーヤは、ひどく傷ついた。
 でも、それでも頑張ろうと思った。
 頭が悪くても、何も考えていないわけじゃない。
 自分の頭が悪いことは自覚していた。
 自分が両親から疎まれていることも感じとっていた。

 けど、ピーヤは、両親に愛されたいと思っていた。
 だから、もっと頑張ろうと考えた。
 家事や仕事を頑張って、人並みのことができるようになる。
 そして、両親に愛してもらいたい。
 幼いピーヤにとって、それが自分自身の存在意義だった。

 ピーヤは家事や仕事に率先して取り組んだ。
 しかし、その度に失敗した。
 家の仕事はうまくできない。簡単な家事でも失敗する。
 そうして失敗すると、また両親に叱責された。
 失敗しないように改善しようとしても、うまくいかない。
 また失敗して。怒られる。
 毎日が同じことの繰り返しだった。

 ◇

 ピーヤが10歳になったとき。

 両親はピーヤを完全に見限った。
 ピーヤを捨てることに決めたのだ。

 深夜にピーヤが寝ている時、ピーヤの手足を縄で縛った。
 決して逃げられないよう念入りに。
 そして、村から離れた荒野の真ん中まで運んで、放置した。

 そんな状態だと、魔物に食われて死ぬことになる。
 運良く魔物に見つからなくても、飢えて死ぬことになるだろう。
 当然そのことは、両親も分かっていた。
 むしろ、直接は手をくださずとも、ピーヤに死んでほしいと思っていたのだ。
 生き残って、家に戻ってこられるわけにはいかない。それには確実に戻ってこないように捨てるのが1番である。
 それが両親の考えだった。

 ピーヤは捨てられたことに絶望した。
 自分の頭が悪いことは分かっていた。
 両親に疎まれていることも知っていた。
 けど、「愛されている」と信じてもいたのだ。
 どんなに怒られたとしても、自分のことを思ってくれてのことである。
 そんなふうに思っていた。

 目の前のことに取り組み続ければ、何かが変わるんじゃないかと思っていた。
 両親の怒りが、笑顔に変わるんじゃないかと思っていた。
 どんなに怒られたとしても、愛されることに近づいていると思っていたのだ。

 だが、そんなことはなかった。
 自分が頑張れば頑張るほど、自分の無能を晒すことになった。
 両親の心は離れていっていた。
 両親は、ピーヤに死んでほしいとすら思うようになっていたのだ。

 だから、ピーヤは絶望した。
 手足を縛られた時、両親は自分を愛していないんだということを、なんとなく察した。
 だから、何も抵抗しなかった。

 死にたいと思っているわけではないが、生きる理由も分からなかった。
 ピーヤはなすがままにされ、荒野に放置された。
 暴れもせず、声も発せず荒野に横たわり続けた。

 ◇

 結果的には、ピーヤは助かった。

 あと少しで魔物に襲われるという瞬間。
 そこに、たまたま旅の神父が通りがかり、助けられた。
 助けが少しでも遅ければ、ピーヤは死んでいただろう。
 
「……大丈夫か?」

 神父はピーヤに尋ねた。
 ピーヤは、下を向きながら頷いた。

 神父は名をバードと言った。
 世界最大の宗教である『クディア教』を教えているとのことだった。
 バードはピーヤの境遇を聞くと同情した。
 そして、自分の住む村に連れて行くと告げた。

 ピーヤはついて行っていいのか分からなかった。
 自分は両親に捨てられ、生きる意味をなくしたばかり。
 生きていて何になる、という思いがあった。
 だが、断ることもできなかった。
 結局、ピーヤはバードに連れられて村に向かった。

 道中、バードとは多くは会話しなかった。
 どうやら彼はあまり喋るのが得意ではないようだった。
 しかし、イシリア教について教えてくれた
 イシリア教は、弱者を救うことを教義としている。
 バードはその一環として旅をしていたということだった。

 ◇

 数日が経ち、バードの村に到着した。 
 名を、ルチレ村と言った。
 バードは、ピーヤを村のみんなに紹介した。
 そうして新たな村での生活が始まった。

 ピーヤは両親に捨てられ、最初のうちは落ち込んでいた。
 しかし、ある時に思い直した。
 助けられたからには生きなければいけない。
 そんな風に思ったのだ。
 やがてまた前を向きはじめた。

 バードはピーヤに仕事を与えた。
 家事や、教会の仕事など、様々なことをやらせた。
 ピーヤが何度失敗しても、見捨てることはせず、何度もやらせた。
 更に、ピーヤが分かりやすいように、仕事の手順を簡単なものに変えて、ピーヤに与えた。
 その結果、ピーヤはいくつかの仕事ができるようになった。

 それ以外にも、ピーヤに一般的な勉強も教えた。こちらは、あまり身になることはなかったが。
 そして、魔物と戦うための手段として、剣術の手ほどきをしてくれた。

 それから、ビーヤは頑張った。
 勉強に、仕事に、剣術、できることを頑張った。

 親に捨てられたときの絶望は二度と味わいたくない。
 だから、ピーヤは頑張った。

 誰かの役に立つことができるように、ひたすらに努力した。
 毎日毎日打ち込んだ。

 だが、何かが人並みにできるようになることはなかった。
 何をしても、他の者に遅れをとった。
 努力をしていないなわけではない。
 ピーヤ自身は、一生懸命、取り組んでいる。
 それでも、ピーヤは何ひとつとしてできるようにはならなかった。

 ピーヤは、自分の不甲斐なさに愕然とした。
 仕事もできない、剣術もできない、勉強もできない。
 だったら自分には何が残るのだろう?

 自問自答した。
 よく考えたが、何も残らない。
 そう思った。
 
 何もできない人間は、生きていたって仕方がない。
 当たり前のことだ。

 でも、それは嫌だと思った。
 自分にも生まれてきた意味があるはずだ。
 それを見つけたいと思った。

 ピーヤは、次の日になるとまた頑張った。
 毎日頑張っていれば、いつの日にか誰かの役に立てるかもしれない。

 だから、頑張った。
 毎日毎日剣を振った。
 勉強をした。
 仕事を頑張った。
 ……それでも成果は出なかったが。

「努力なんかしなければいいじゃない」

 ある時、バードの娘のサリーが言った。
 努力なんて苦しいだけだ。
 なにもできない、才能がない人間は、ただ生きることだけを考えていればいい、と。

「あなたを見ていると、疲れるわ」

 サリーは才能のある人間だった。
 年はピーヤと同じだが、どんな仕事もそつなくこなす。
 それだけでなく、魔法の才能も持っており、一介の冒険者並みの力を持っているようだった。
 将来何になるのかは分からないが、サリーは何をしても成功するに違いないと思えた。
 
「あなたが頑張ったところで、何にもならないわ。
 あんたみたいな不器用なやつが、色々頑張ったって仕方がない」

 父さんが育てると決めた以上、あんたはもう家族よ。
 何もできなくても出ていけなんて言わないから。そのままじっとしていなさいよ」

 たしかに、これだけの能力があれば、確かに人の1人や2人くらい、面倒を見ることができるだろう。
 だが、それでは意味がないと思った。

「ちょっと! なんで何もしゃべらないのよ!」

 サリーが嫌いなわけじゃない。
 だが、意味がないと思った。
 ピーヤは頭は悪いが、考えを持たないわけじゃない。
 ただ生きるだけの人生になんて意味はない。 
 誰かに生かされるだけの人生なんて意味はない、と思ったのだ。

 だが、サリーの言うことにはもっともな部分もあった。
 自分のような不器用な者が、色々頑張ったって仕方がない
 いくつものことをしていたら、何ひとつ、人並みにすらなることはないと。
 だから、一つのことだけに打ち込もうと思った。

 ピーヤは剣術に打ち込むことにした。
 自分を助けてくれた神父のように、困っている人を助けている自分を想像した。 
 自分は頭が悪い。
 だったらシンプルなことに専念するべきだ。
 剣術なら、少しづつでも強くなれる。
 戦いでの駆け引きはできないかもしれないが……
 それでも、剣を振り続ければ、少しづつ強くなって、誰かを助けられる確率は上がるはずだ。

 毎日毎日剣を振る。
 剣を教えてくれる人はいない。
 最初の手ほどきはバートが教えてくれたが、そこから先は教えられないとのことだった。
 だが、ピーヤが剣を頑張ることは認めてくれた。
 だから、独学で剣を振り続けた。
 
 5年間、稽古した。
 ピーヤは、自分が変わったことを実感していた。
 特別強いわけではないかもしれない。しかし、いざという時に人を守れるようにはなれたと感じた。

 ◇

 夜の闇の中、月の光が輝いている。
 村の外には、数十人の男の姿があった。

「頭~!!
 女は自由にしていいんですよね!?」

「ああ、好きにしな。
 女は犯せ。男は殺せ。金品は奪え。食料は食い荒らせ。
 情けは一切いらねえ!
 さあっ……! いけえええええ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 駆け出す盗賊たち。
 彼らは村を襲撃し始めた。
 火のついた矢が家を焼き、村人たちは悲鳴を上げながら逃げ惑った。
 盗賊たちは略奪し、破壊し、殺戮を楽しんでいた。

 いつも通り剣を振っていたピーヤ。
 しかし、嫌な予感が走った。
 ビーヤは村まで走った。

「サリー!!いるか!?」

「お父さん!外が大変なことに!」

「ああ!早く逃げるんだ!サリー!!」

 村は、燃えていた。
 盗賊団の連中が、村を襲っている。

 守らなきゃと思った。
 ビーヤは駆け出した。

 盗賊に犯される女の子が目に入った。
 ビーヤは剣を構え、後ろから盗賊を切りつけた。

「ぐあっ!?」

 剣を受けた盗賊が倒れる。

 辺りを見ると、めちゃくちゃな状況だ。
 何人もの盗賊が、村の人を襲っている。
 駄目だ……全員を助けることはできない。
 1人か2人、助けられたとしても、複数の盗賊を相手にすれば殺される。

 ふと、ピーヤの頭にバート神父と、サリーの顔がよぎった。
 自分のことを家族と言ってくれた人たち。
 彼らのことを助けたいと思った。
 ピーヤは教会に向かって駆け出した。

 ◇

「さあ、サリー!逃げなさい!」
「お父さんはどうするの!?」 
「私は村の人を見捨てるわけにはいかない」
「そんなの駄目!殺されるわ!」

 その時、教会の扉が開かれた。

「なんだ……まだ生きてるやつがいたのか」

 大柄の男が門を開く。

 一目見て、かなりの実力者だと思った。
 顔中に傷がついており、戦いの世界に長年生きてきたことを伺わせる。
 おそらく、盗賊の頭領に違いない。

 続いて、仲間と思われる盗賊2人が入ってきた。

 強い威圧感。
 サリーは、プレッシャーに足が震える。

「サリー!逃げろ!」
「お父さん!」

 バードはサリーの前に出る。
 
「私の命はどうなってもいい!娘だけは見逃してくれ!」
「……やなこった。そんな話を聞かないから、俺は盗賊をしているんだ」

 盗賊の頭領は剣を振り下ろす。

「お父さん!」
「サリー!逃げろ!」

「さて、次はお前だな。
 まだ子供だから、部下に犯させるのは勘弁してやる。
 正直、子供を殺すのは好きじゃないが……
 下手に生かして、恨みの種を残したくはねえ……殺させてもらうぜ」

 盗賊の棟梁が剣を抜き、伝える。

「よくも…お父さんを! 村の皆を!」

 怒りと悲しみの混じった声で、サリーは叫ぶ。
 サリーの手から炎が放たれる。

『爆炎魔法』

 盗賊の部下2人が炎に包まれる。

「ぐわああああああああああ!」
「熱いいいいいいいいいいい!」

 倒れたのは2人
 全員を倒すつもりだったが、頭領は生きていた。

「ははっ…! 魔法を使えるのか。」 

 サリーの魔法を見ても、まるで動揺していない。
 やはり、かなり戦いなれしているようだ。
 
 サリーは、更に魔法を使うべく、構えた。
 その瞬間。
 盗賊から、とてつもない殺気が放たれる。
 一瞬、恐怖に支配されかけるが、構っている場合ではない。
 サリーは魔法を放つ。
 さっき放ったものよりも強い炎。
 だが、それを盗賊はいとも簡単に避けてみせる。
 
 構わず続けて魔法を連射する。
 しかし、盗賊には当たらない。

「っ……そんなっ……!!」

 実戦経験も、能力も、何もかもが違いすぎるのだ。
 サリーは優秀な魔法使いだ。
 時々外に出て魔物を退治しており、冒険者並みの力を持っている。 
 おそらく、同世代では右に出るものはいないだろう。
 だが、眼の前の男は、おそらくランク3以上の力を持っている。
 技術も能力も経験も、全てにおいて相手が上。
 サリーに勝ち目は無い状況だった。

 だめだ……当たらない。 
 サリーが魔法を撃っても、最小限の動きで回避される。
 そして、盗賊の棟梁は、風のような速度で接近し、手に持った剣を振り抜いた。

 瞬間、防御魔法を発動した。
 魔力で構成された結界が、サリーの前に現れる。
 だが、結界ごと吹き飛ばされる。
 壁にぶつかるサリー。

 だめだ……勝てない。

「防御魔法か。あの一瞬で発動させるとは……やるな。
 大した才能だと認めてやる。
 だが、これで終わりだ……!」

 圧倒的な膂力で放たれた剣閃。
 その速度は、敵対した者に、回避という選択を与えない。
 サリーの表情が絶望に染まる。
 サリーは目をつぶり、死を覚悟した。

 ギイン!
 剣と剣がぶつかる音が響く。
 あれ……?切られていない?
 サリーは驚いて目を見開く。
 眼の前には、剣で剣を受け止めているピーヤがいた。

「ピーヤ……!?」

 ピーヤはサリーの方を見て、それからバードの死体を見た。

「バード神父……」
 
 自分を助けてくれたバード。
 あんなにすごい人が、こんな奴らに殺されるなんて。

「ピーヤ!逃げなさい!
 殺されるわ!」

 その通りだ。
 サリーが勝てないやつに自分なんかが勝てるはずかない。
 おそらく自分はここで死ぬだろう。
 だが、それでいいと思えた。

「サリー、逃げて」

「何いってんの!逃げるのはあんたよ!」

 ピーヤは、首を横に振る。

「僕はこいつを倒すから、サリーは逃げて」
 
「うん……?
 倒すって言ったか? この俺を!
 はははっ……はははははははは!」

 盗賊の頭領は剣を振る。
 ピーヤは真っ直ぐに見ている。
 
「やってみろよっ!ガキィ!」

 懸命に剣を防ぐピーヤ。
 ピーヤは顔を歪める。
 ピーヤの力は、盗賊の男には遠く及ばない。

 これだけの力を持つ人間なら、ピーヤの弱さにすぐ気づく。
 時間をかければかけるほど、勝てる可能性はゼロに近づくだろう。
 一撃に、掛けるしかない。
 ピーヤは、剣を振る。 
 真っ直ぐに剣の刃が向かっていく。
 速度は十分。いける……!

 金属音が鳴り響く。
 盗賊の頭領は、ピーヤの剣を平然と防ぐ。

「弱えなっ… 死ねっ…!」

 盗賊の頭領は、刃を払って、そのまま手首を返してビーヤに斬撃を浴びせる。

「駄目っ! ピーヤ!」

 サリーはなんとかピーヤを助けられないか考えるが、間に合わない。

 肩口から心臓をめがけて迫る刃。 
 ピーヤはその刃に向かい、真っ直ぐ突進した。
 
 盗賊の頭領は目を見開く。
 命を恐れぬその行動は、全く予想していなかったのだろう。
 そのまま、盗賊の頭領の剣は、ピーヤを切り裂く。
 だが、同時に、ピーヤも剣を振るい、盗賊の首筋を切り裂いた。
 ピーヤの手に、肉を切り裂く感触が伝わる。盗賊の頭領から、噴水のように血が吹き出た。

「がはっ…馬鹿な…」

 さしもの盗賊の頭領も、死をも恐れない突撃は想定していなかったようだ。
 驚愕の表情をしたまま絶命した。

 ピーヤは、盗賊が起き上がって来ないことを確認すると、ゆっくりと崩れ落ちた。

「ピーヤ!!」

 サリーは駆け寄りピーヤを抱きかかえる

 ピーヤの傷を確認する。
 肩口から、胸の半ばにかけて剣で切られている。
 この傷では……おそらく、長くはもたないだろう。

「サリー……逃げて……」

 ピーヤは呻きながら、小さな声でサリーにそう告げる。
 まだ外には盗賊達が大勢いる。
 そいつらに見つかったら殺される。

「そんなの嫌よ……!みんなを見捨てて逃げるなんて嫌よ!」

「逃げて……サリー」

「ビーヤ……」
  
 生きてほしいと思った。
 彼女は自分とは違って、なんでもできる。
 生きているだけで、多くの人の力になるだろうと。

「ビーヤ、どうしてあなたはそうなのよ…? 自分のことを蔑ろにして。
 私は…あんたにも生きてほしいんだよ…?」

 サリーはいつも、ビーヤのことを心配していた。
 何をしても失敗してしまう。だが、決して諦めようとはしないその生き方に。

「ありが…とう…」
「何がありがとうよ!助けられたのは私じゃない!」

 もともと、分かっていたことだった。
 剣を頑張ったとしても、自分には剣の才能があるわけじゃない。
 だから、自分が剣を使っても、助けられるのはほんの数人になると思っていた。
 でも、それでもいいと思って剣を振っていたのだ。
 自分と関わってくれた人を助けられたならそれでいい。 

 ピーヤは静かに息を引き取った。

「ピーヤ……お父さん…私、行くね。街まで逃げて、生きなきゃ」

 裏口から外に出て、サリーは逃げる。
 盗賊はまだ村の人を襲っているだろう。
 あるいは自分の力なら、何人かを助けることはできるのかもしれないが……

「……だめね。
 今は、とにかく逃げなきゃ」

 死にたくないと強く思った。
 自分を助けてくれた父や、ピーヤのために、今ここで死ぬわけにはいかないと強く思った。
 サリーは外に向かってまっすぐ走る。
 盗賊達に見つからないようにして、村の外に向かって走り抜ける。
 村の外に出ても、走り続ける。

 走る。走る。走る。
 サリーは走った。
 懸命に走った。
 真っ暗の中、唯生きることを考えて。
 ひたすらに走った。

 村はどうなっているだろうか。 
 街についたら、憲兵にこのことを伝えて、助けてもらわないと。  
 盗賊たちには逃げられるかもしれないが、多くの者達は捕まえることができるはずだ。
 落ち着いたら、父やピーヤの墓を作って上げたい。

 そんなことを考えながら、ひた走る。 
 何時間、走っただろうか
 視界の先に、街が見えてきた。

 サリーの顔に安堵が浮かぶ。
 助かった、と思った。

 ◇

 あれから10年が経った。
 私はときどき、ピーヤのことを思い出す。

 私なんかを助けず、ただ生きていてくれたら良かったのにって。
 あなたはいつも、村の皆から仲間外れにされていた。

 頭が悪いから。
 ただそれだけで、誰もピーヤを受け入れなかった。

 私は、父さんに連れられて何度か旅をした。
 その中で、色々な人を見てきた。
 父さんと一緒に、色々な人を助けてきた。
 逆に、運が悪くて死んでしまう人も見てきた。
 そういう人を見て思うのは、人と人との違いなんて大したものではないということだ。

 だから、自分なんてたまたま運がいいだけだと思った。
 皆は私のことを天才だなんていうが、少しの違いで、私が死んでしまう側だったかもしれないと思った

 だから、ピーヤがいつも失敗していても、それで皆に仲間外れにされていても、他人事だとは思わなかった。

 私は未だに考える。
 果たしてピーヤは幸せだったのだろうかと?

 …おそらく、幸せではなかったと思う。 
 他人のために死んで、幸せなんてことはないだろう。 
 だが、彼はおそらく、途中から分かっていたのだろう。
 自分は幸せになれないということを。

 だから、彼は誰かの役に立つ道を選んだ。
 幸せにはなれないけど、誰かの幸せにつながる道を。

 何もせずに生き続けることではなく、誰かの役に立って死ぬこと。
 そんな道をあなたは選んだ。
 それを間違っているという人もいるかもしれない。
 けど、それでも、あなたはよく頑張ったと思う。

 でも、私はあなたに伝えたいと思う。
 ビーヤ、ありがとう。

「お母さん。どうしたの? 楽しそう」

 娘が笑顔で尋ねてくる。
 この子は人の感情を読み取るのが非常にうまい。

「そうね…子供の頃の馬鹿なやつを思い出したからかしら」

 馬鹿なやつ。
 例え何をすることもできないとしても、もっといい生き方はあっただろうに。

「ふーん。お母さんは、その人のことが好きだったの?」

 3歳にして、人の色恋沙汰に興味があるのか。まったく、ませた子だ。

「あー、どうかしらね…。好きだったというよりは、放っておけないって感じだったのかもしれないわね」

「そんなんだー!まあ、お母さんはお父さんのことが大好きだもんね!
 いっつもお父さんと話しているときは嬉しそうだもん」

 娘はこれから、どんな風に生きていくのだろうか? この子には天性の才能がある。
 優秀だと言われていた私が霞むほどの、魔力と知能が。
 きっと、私には思いもよらないことを成し遂げるに違いない。

 ピーヤ、私はあんたに救われた。
 私はいつまで生きれるだろうか。
 おばあさんになるまで生きながられるだろうか。
 この物騒な世の中だ。盗賊や魔物に殺される可能性もあるかもしれない。

 ……やめよう。
 過去のことばかりを考えてはいけない。
 父さんは死んだ、村の皆は死んだ、ピーヤも死んだ。
 生きている私は、前を向いて生きていかなければならないのだ。

 ピーヤ、私はあなたを好きになってあげられなかった。
 けど、あなたは私の家族だし、私はあなたに感謝をしているよ。

 考えるのを止めて娘を見る。

「マリア。今日の晩ごはんは、シチューにしよっか」

「え! やったー!」

 今日の献立を聞いた娘は、目を輝かせて喜んだ。
 誰もが幸せになる笑顔だった。

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